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荒川 歩 著、電子書籍・新刊『「裁判員」の形成、その心理学的解明』の発刊の見通しが立ってきましたので、お知らせします。
原稿校了し、現在、電子書籍ファイルの制作を進めています。発刊まで、あと少しお待ちください(2014年2月1日更新)。
書名:「裁判員」の形成、その心理学的解明(仮)
著者:荒川 歩
発行年月:2014年3月
発行者:特定非営利活動法人ratik
ISBN:978-4-907438-00-5
電子書籍ファイル形式:EPUB・リフロー
販売価格:2,500円(予価、消費税込)
「裁判員」という「職業」は存在しない。
「裁判員」とは一時的にその役割を担った「市民」であり、「裁判員の心理」とは裁判員という場面に遭遇した「市民の心理」に過ぎない。
さらにまた「裁判員」とは(法曹ではないという意味で)一般市民ではあるが、市井にいる「市民」そのものでもない。
人はある役割を担うとき、その役割を果たそう(演じよう)とする。すなわち「裁判員」というものが「ある」のではなく、「市民」が裁判員に「なる」のである。
公判における心証形成、評議における判断形成、…。
知覚、認知、記憶、感情、判断、説得・納得といった心のはたらきの理解をベースに、「裁判員」の「心理」をさまざまな調査をもとに論じる。
【目次(仮)】
はじめに
- 模擬裁判での裁判員の言葉から
- 裁判員という時間
- 社会科学にもとづく司法
- これまでの陪審/裁判員研究
- 本書の目的
- 大学生を対象とする研究の限界
- 裁判員の心理過程のうち、本書では扱わないこと
第1章 「裁判員」という役割
- 第1節 裁判員と裁判官の違い
- 第1項 裁判官と裁判員が受けている訓練による思考の違い
- 第2項 裁判官と裁判員の文脈の違い
- 第3項 裁判官と裁判員では判決に違いがあるか
- 第2節 市民がもつ事象・法的概念のイメージ:常識的司法
- 第1項 常識的司法とは
- 第2項 市民は法的概念をどのように理解しているか
- 第3項 市民は心神喪失をどう捉えているか
- 第4項 法律や精神障害に対する知識の付与は市民の態度を変えるか
- 第5項 市民が事前にもつ態度や法律のイメージと裁判員制度
- 第3節 裁判員=市民ではない
- 第1項 裁判員になることの意味
- 第2項 裁判員のイメージとイメージによる負担感の違い
- 第3項 裁判員の役割に対する説明が事件に対する判断に与える影響
- 第4項 裁判員をどう準備するかで判断は変わる
第2章 公判における「裁判員」の形成
- 第1節 裁判員は公判の中でどのように心証を形成するか
- 第2節 事実認定者としての裁判員の限界
- 第1項 知覚過程における歪み
- 第2項 記憶過程における歪み
- 第3項 判断過程における歪み
- 第3節 心理的事象に対する市民の理解と専門的知識のズレ
- 第1項 公判における「しろうと理論」の影響
- 第2項 証人に対する素朴信念
- 第3項 自白に対する信念
- 第4項 素朴信念に抵抗する手段
- 第4節 弁論の内容が裁判員の意見形成に与える影響
- 第1項 裁判員に対する弁論の機能
- 第2項 裁判官役が殺意ありの心証をもつ殺人事件で弁護人の事前接種が与える影響
- 第3項 裁判官役が正当防衛ではないという心証をもつ殺人事件で弁護人の事前接種が与える影響
- 第4項 弁論が裁判員に与える事前接種効果
第3章 評議における「裁判員」の形成
- 第1節 評議における裁判員の判断形成
- 第2節 評議の運営が裁判員の意思形成に与える影響
- 第3節 実際の裁判官が参加した模擬裁判と裁判員の満足
- 第1項 実際の裁判官の裁判員模擬裁判と裁判員の意味づけを検討する意味
- 第2項 実際の評議におけるコミュニケーションの概要
- 第3項 判決、評議に対する満足に関する分析
- 第4項 納得したポイントの分析
- 第5項 実際の裁判官の裁判員模擬裁判研究のまとめ
- 第4節 意見のズレの解消過程の分析と評議後の「裁判員」の意思の変化
- 第1項 評議における意見のズレとその解消過程を研究する意味
- 第2項 ズレの解消過程の分析
- 第3項 時間をおいた後の裁判員の意見の変化
第4章 まとめ
- 第1節 裁判員の心理はどのようなものといえるか
- 第2節 裁判員研究の意味
- 第1項 実務における裁判員研究の意味
- 第2項 心理学研究における裁判員研究からの示唆
引用文献
謝辞
【著者紹介】
荒川 歩(あらかわ あゆむ)
武蔵野美術大学 教養文化研究室 准教授
博士(心理学)
1976年大阪府生まれ
同志社大学大学院文学研究科博士課程(後期課程)単位修得退学
立命館大学人間科学研究所研究支援者、
名古屋大学大学院法学研究科研究員、
名古屋大学大学院法学研究科特任講師を経て現職
近著に、
- 『〈境界〉の今をたどる——身体から世界へ・若手15人の視点』(共編著)東信堂、2009年
- 『考えるための心理学』(共著)武蔵野美術大学出版局、2012年
- 『心理学史』(共編著)学文堂、2012年 など
制作の過程で、著者の荒川 歩さんから、本書の根底にある問題意識として次のようなエピソードを聞きました。
模擬裁判直後のアンケートで,多くの裁判員が模擬裁判の評議に満足したかという問いで「十分できた」に○をしているのに対し、その参加者だけは、「全くできなかった」に○をつけていた。
モニターを通して評議の内容を客観的に見ていた限り、裁判長は誠実に、できるだけ裁判員の意見を丁寧に聞き、自分の意見は最後まで言わないようにしているように見えた。いったいここで起こっているのはどのようなコミュニケーションなのだろうか。
本書は、裁判員裁判のプロセスの中で、人が裁判員に「なる」心理的過程を丹念に追いかけたものです。
このページの冒頭の言葉のとおり、「裁判員」という役割を担おうとするとき、人は或る種の期待に応え、その役割を果たそう・演じようとします。さらに、「プレーヤー」とでも呼べばよいのでしょうか、裁判員裁判には、専門家/非専門家といった区分に留まらず、種々の異なるバックグラウンドを背負った人物が参与します。
本書が基づいているのは、裁判員裁判という「グループ・ダイナミズム」の中で、種々の局面において「裁判員の意思」がどのようなプロセスを経て形成されていくのかを明らかにする研究であるとも言えるでしょう。
また、こうした研究は「心理学」全体のパースペクティヴから眺めた場合、単に裁判員裁判という限定された場面のみならず、人が、ある判断基準をもった集団に入り、その基準を学び、集団的な意思決定を行なうときの心理一般の解明に資するものになっていく筈です。
先進国において、(裁判官を含め)人は、他者の心理や能力について誤った信念をもっていても、それに気付かないという事実を踏まえ、心理学を含む社会科学の知識や方法を積極的に司法に取り入れようとする動きが高まっています。しかし、日本では「法と心理学」の位置づけはまだまだ高いとは言えない現状があります。
現在、心理学研究者として教鞭を執る傍ら、荒川さんが「学生」として法学部で勉学を続けられていることを知り、感銘を受けました。「司法」の在り方を変えていくためには、その内部に入り、そこで通じる言葉を磨いていかねばならない…。
本書が「社会科学にもとづく司法」の実現に寄与していくことを願っています。
PDFファイルをダウンロードしていただくことができます。よろしければ、広くお知らせいただけますと幸甚です。〔ratik・木村 健〕
こちらから「チラシ」のPDFファイルをダウンロードしていただけます!
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