法と心理学会の学会誌「法と心理」第14巻1号に荒川 歩 著『「裁判員」の形成、その心理学的解明』の書評が掲載されました。評者は、東京大学大学院・助教で法廷心理学の綿村英一郎さんです。
本書について綿村さんからは、「裁判員の心理」に的を絞った書籍として「これまでで最も本格的」という評価をいただきました。また、こうした書籍が、裁判員制度の施行から「わずか5年あまり」で発刊されたことをお褒めいただいています。
本書で取り上げられた荒川さんご自身の個々の研究については、学会誌など他の媒体に既に掲載されたものが多数を占めています。また、ここで裁判員裁判に関わる先行研究として概括される幾ばくかの「心理」は、人間万般に言えることで、認知心理学・社会心理学の知見を参照すれば見つけられるものであるのかもしれません。
しかし、これらの内容が「1冊の本」として編まれることで、荒川さんの個々の研究が、どのような枠取りの中に位置づけられ、どのような大局的な意図の元で遂行されてきたのかを、読者は容易に知ることが出来ます。また、荒川さん/ratikの事情で若干作業が滞る場面もありましたが(さらには荒川さんご自身の丁寧で素早い身のこなしによるところが大きいのですが)、新刊書籍の企画をうかがってから発刊までの期間は、驚く程、短いものでした。ここには電子媒体ならではの「強み」がはたらいています。
本書では、さまざまな分析に基づき「裁判員に対する裁判官の影響」が説明されてきました。綿村さんからは、さらに今後、「裁判官に対する裁判員の影響」を検証していく必要性をご指摘いただきました。この観点は非常に面白いと感じます。
専門家/非専門家間のコミュニケーションを通して、「裁判員(の心理)」が形成されます。同じように、この独特な場において、専門家である「裁判官(の心理)」の側の形成も、これまでにない様相を含むようになっているのかもしれません。
裁判員制度をより良きものに見直し、さらには「裁判」というシステム全体を改善していく上で、こうした場のダイナミズムの中で、それぞれの参画者の心理を検証していくことは不可欠になってくるでしょう。
引き続き、この主題に関心を抱いていきたいと考えています。綿村さん、ありがとうございました。〔ratik・木村 健〕