医療は求められたところに行くのが一番いいと思って、陸前高田に来た
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起きるかもしれない1%のことに努力を惜しまない
【陸前高田】 話し手 ── 佐藤 一男さん 聞き手 ── 大槻 淑子、古賀 真知子 編集者 ── 小井手 祐子 聞いた日 ── 2012年8月17日 […]
『関西大学商学部 長谷川ゼミナール 2014年度 聞き書き作品集』のためのまえがき
「国際協力・技術移転・人材育成の現場を歩く」ことをテーマとし、発展途上国での夏季研修にとりくんできた関西大学商学部長谷川ゼミナールは、2011年3月11日の東日本大震災に際して、ボランティア派遣などの被災地支援に同年5月からとりくむようになった。しかし震災から1年が経過して、私たちは大阪から被災地へボランティアを派遣することに限界を感じるようになった。遠隔地であるため、学生ボランティアの派遣には費用がかさむ一方で、被災地でのボランティアニーズが高度化・複雑化し、学生では対応できないケースが増えてきた。つまり、遠隔地大阪の学生がボランティアとして被災地に赴く価値はなくなりつつあった。こうした事情から、私たちは学生ボランティア派遣に代わる被災地支援の方法を模索することになった。関西大学の学生の圧倒的多数は、東北地方を旅したことすらなく、縁もゆかりもなじみもない。一見すると被災地に関わることが不利なこうした状況が、有利にはたらく被災地支援はないか。
私たちは、その探索の途上で東京財団と共存の森ネットワークによる「被災地の聞き書きプロジェクト101」に出会った。このプロジェクトは、東日本大震災の被災者101名に、震災前の暮らしの様子を中心に震災後の状況や今後への想いを1対1で聞くものであった。「被災された方々が日常を取り戻していく上で拠り所となるのは、『被災地』という抽象的な括りではない、ご自身が積み重ねてきた日々の営み、暮らしに溶け込んだ生活文化ではないか」(東京財団・共存の森ネットワーク(編)『被災地の聞き書きプロジェクト101』2012年、3頁)。
聞き手が話し手の人生を丸ごと聞き、話し手自身の言葉で聞き手が文章化する「聞き書き」は、専門的知識や特殊技能が不要で、話し手を敬い謙虚に向き合う姿勢さえあれば、誰でもとりくむことができる。この「聞き書き」に、2012年夏に被災地(陸前高田と石巻)で研修を行うゼミ生たちがとりくんだ。
その結果、「聞き書き」がもたらすものが見えてきた。第1に、話し手が暮らす土地(被災地)に愛着が生まれ、話し手(被災者)と聞き手(学生)は親戚や家族のような関係になり、長期にわたってその交流は続いていく。縁もゆかりもなかった遠隔地大阪の学生が被災地・被災者と縁を結ぶ「聞き書き」は、長期にわたって震災を忘れず、被災地・被災者を思い、関わっていくためのプラットフォームなのである。
第2に、聞き手(学生)にとって話し手は、人生の先輩であり、生まれ育った環境も、価値観・世界観も異なる存在である。であるがゆえに「聞き書き」は、聞き手(学生)にとっては自らの生き方を見直す機会となり、話し手が聞き手の心に宿って「もう1人の自分」となる。「もう1人の自分」を増やすことによって、聞き手(学生)は多角的なものの見方や相手の立場でものを考えることができるようになっていく。
「聞き書き」が、こうした価値(遠隔地との縁結びと「もう1人の自分」づくり)をもたらすものだとわかってきたので、2013年度は被災地に限らず、海外研修においても「聞き書き」を行うことにした。その結果、岩手県陸前高田市・大槌町、ブラジル連邦共和国、中華人民共和国で合計22名の話し手にゼミ生たちが「聞き書き」を行い、その成果は『2013年度聞き書き作品集』として公開された。
引き続く2014年度も、ゼミとして「聞き書き」は必須とするが研修は必須としないという修正はあったものの、3年次ゼミ生たちが聞き手となる「聞き書き」が宮城県石巻市、岩手県陸前高田市と中華人民共和国の深圳市の計3地点において行われた。いずれの「聞き書き」も、2013年度まで築きあげてきた関係(縁)に基づいて行われたが、これまでにない今年度の特徴としては、2012年度に長谷川ゼミとして初めて行った「聞き書き」を引き継ぐ形での作品化と、長谷川ゼミが陸前高田でお世話になっている「桜ライン311」から話し手を紹介してもらっての「聞き書き」があげられる。
長谷川ゼミが『聞き書き作品集』を公開するのは、今回で2回目となる。ここまで来ることができたのは、話し手との出会いを快く用意してくれた関係者のみなさんの心意気と、話し手のみなさんの惜しみない協力と、聞き手となったゼミ生諸君の悪戦苦闘があったからこそである。今ここに、話し手と聞き手の共同の作品集が完成したことを素直に喜びたい。話し手の豊かな人生と価値観・世界観を味わいうる作品集に仕上がったと自負している。この『聞き書き作品集』のページを開き、1人ひとりのかけがえのない物語を、自らの人生と照らし合わせながら、じっくりと味わっていただければ幸いである。
最後に、話し手をはじめとして、この長谷川ゼミの「聞き書き」のとりくみに、快く賛同・協力し、ときとして叱咤激励をいただいた方々に感謝したい。
2014年12月20日