香港の観光地のケーブルカーからの眺望に生じる錯覚を題材に、私たちが「天地」の知覚を得るメカニズムに迫る研究が、Psychological Science誌に掲載されています。
C.-h. Tseng, H. M. Chow, L. Spillmann. Falling Skyscrapers: When Cross-Modal Perception of Verticality Fails. Psychological Science, 2013.
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私たちは普段、ジャンプしようが・座ろうが・寝転がろうが、重力の向きに沿うかたちで「天地」を視覚的に知覚しています。こここには、視覚のみならず種々の認知メカニズムがクロスモーダルに関与していることが予想されます。イリュージョン(錯覚)は、日常生活の中ではあたかも自動的に働いている「知覚成立のメカニズム」を解明していくためのヒントを与えてくれます。
研究者グループが注目したのは香港ピーク・トラムからのスカイスクレーパー(「摩天楼」と呼ばれるような超高層建築群)の眺望。このトラムは、ヴィクトリア・ピークの山麓と山頂とを結ぶケーブルカーで、途上で香港の市街地の町並みが眺められ、乗客の多くは摩天楼が傾き、あたかも倒れてきそうは錯覚に見舞われるということです。
この地のトラム車両は、最大勾配27度・最小勾配4度と勾配の変動が大きいため、普通鉄道と同様のフラットな床面で、座席はすべて山頂側を向いたクロスシートで設計されています。このため、傾斜区間を走行する際には、車両を構成する縦横の軸線が、重力の向きと異なってしまいます。このことが、錯覚の生成に大きく関係しているようです。ここでは、「天地」の知覚において、視覚的に身近な参照枠(ここではトラム乗客にとっての車両内部の縦横の軸線の見え)がより優位にはたらいていることがうかがえます。〔ratik・木村 健〕