先行研究によって、ドーパミン産生神経細胞は、大きな報酬が予測されたときなどに活動を上昇させ(つまり、多くのドーパミンを脳内に放出し)、動物のモチベーションを上げる働きがあることが明らかにされてきました。今回の高田昌彦 霊長類研究所教授と松本正幸 筑波大学医学医療系教授(2012年12月まで霊長類研究所助教)による新たな研究は、その機能異常がパーキンソン病だけでなく鬱病など多くの精神疾患にも深く関わるドーパミン産生神経細胞が、動物のモチベーションを調節するなど、動機付け機能に関わるグループと、作業記憶などの認知機能を担うグループに分かれていることを明らかにしました。
研究の成果は、米国科学誌Cell誌関連の「Neuron」(電子版:2013年8月8日、印刷版:2013年9月4日(いずれも米国東部時間))に掲載されています。
Matsumoto Masayuki, Takada Masahiko. Distinct Representations of Cognitive and Motivational Signals in Midbrain Dopamine Neurons. Neuron, 08 August 2013.
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ドーパミン神経系の機能異常の結果として、パーキンソン病や鬱病などで見られる意欲障害が生じると考えられています。しかし、この機能異常が原因となる疾患では、意欲障害だけではなく、多くの場合に認知機能障害を併発することが知られています。
実験では、サルに「遅延見本合わせ課題」と呼ばれる作業記憶を必要とする行動課題を行わせました。具体的には、モニター上に呈示された線分の角度をサルに記憶させ、その後に呈示される複数の線分の中から記憶した角度のものを選ばせます。サルが正解の線分を選べたら、報酬としてリンゴジュースを与えます。このような課題を行っているサルのドーパミン産生神経細胞からその活動を記録すると、記憶すべき線分が呈示されたときに活動の上昇が見られたのに対して、記憶する必要のない線分を呈示しても活動上昇は見られませんでした。特に興味深い点は、作業記憶に関わると考えられるこのような活動上昇は、黒質緻密部の背外側部に分布するドーパミン産生神経細胞だけで見られ、それ以外の領域(黒質緻密部の腹内側部や腹側被蓋野)に分布するドーパミン産生神経細胞では、これまで報告されてきた報酬に関わる活動上昇だけが見られたということです。以上の結果から、ドーパミン産生神経細胞は、作業記憶などの認知機能を担うグループと、動機付け機能に関わるグループに分かれていることがわかりました。〔ratik・木村 健〕