抑うつ状態にある人は、通常よりも「時間の経過を正確に知覚している」ことを示す研究成果がPLOS ONEに掲載されています。健常な人、幸福感を抱いて生活している人の「時間の知覚」において「無意識」に働いている「認知的バイアス」が、抑うつ状態にある人では機能していないことを突き止める興味深い結果です。
Diana E. Kornbrot, Rachel M. Msetfi, Melvyn J. Grimwood. Time Perception and Depressive Realism: Judgment Type, Psychophysical Functions and Bias. PLOS ONE, 2013; 8 (8): e71585.
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抑うつ状態にある人は、一般に、自分の才能を低く評価したり、事実を歪めて解釈したりすることで、人生をネガティヴに見なしがちだと言われています。「救いの無さ」「望みの無さ」「価値の無さ」の感覚や、物事に対する制御を失った感じは、この状態にある人の特徴的な症状とされています。また、抑うつ状態にある人からは、自らの経験や人生を表現する際に「時間がぐずぐずと流れているようだ」といった言葉がしばしば発せられます。
しかし、今回の研究成果は反対に、現実の知覚の正確さにおいて、抑うつ状態にある人のほうが健常な人を上回っていることを示しています。健常な人、幸福感を抱いて生活している人のほうが、実は「バラ色のメガネ」(ポジティヴ・バイアス)を通して世界を眺めていると言えるのかもしれません。
実験参加者には、2〜65秒の間で提示される複数の時間間隔についての評価が求められました。また実験参加者は、同様の時間間隔を自ら報告する課題にも取り組みました。結果、健常群では、示される時間経過を「速い」と答え、現実の時間経過よりも「遅い」時間経過の報告をする傾向があったのに対し、弱い抑うつ状態にある群は、2つの課題に対し、より正確な時間感覚を示したとのことでした。また、この結果は「抑うつリアリズム」として注目されている事象とも合致するものです。
これまで、抑うつ状態にある人には、「現実」と自分自身との関係性をきちんと把握し直すことが促されてきました。しかし、人間の認知の2重過程(自動的・無意識的過程/意識的過程)、とりわけ無意識的なポジティヴ・バイアスに注目した場合、別の経路が開かれてくるかもしれません。今回の研究成果を受けて、研究者は、現在の瞬間の覚知にフォーカスを当てるように促すマインドフルネスに基づいた療法の可能性を示唆しています。〔ratik・木村 健〕