IQテストのスコアにおいて、どの世代も先行世代を上回っている…。「フリン効果」で知られるJames FlynnのトークをTEDで視聴することができます。私たち人類は賢くなっていると言えるのでしょうか。
表記の問いに答えるために、たとえばウェクスラー・テストが何を測定しているのか、考えてみる必要があります。ここで注目すべきものとして、たとえば「対象を分類する力」が挙げられるでしょう。
フリンは、知性が利用し取り扱う対象が「具体的な世界内の事物」から「高度に抽象化されたシンボルの論理的な分析」に変化してきたと言います。「近代化」とも言い換えられる流れの中で、私たちの生活は「異なる現実」を描くのに長けた「カテゴリー」「仮定を含んだ言説」「非言語的シンボル」「視覚的イメージ」に溢れ、それらに強烈に支配されたものとなってしまいました。当然ながら、私たちの「思考の仕方」も大きく変わっていきます。
今日、私たちは対象を分類する際に、「個々の違い」を強調するのではなく、「抽象化された記号」や「仮定を含んだ言説」を分析するための「論理」を重視します。フリンも例に挙げていた心理学者Alexander Luriaによる「近代化されていない人」に対するインタビューでの次のやり取りは、この「違い」を鮮明に浮かび上がらせています。
ドイツにはラクダは居ません。B市はドイツにあります。B市にラクダは居ますか、居ませんか?
「私は知りません。何故なら、私はドイツの村を訪れたことがないからです。もしB市が大きな町ならば、そこにはきっとラクダが居るでしょう。」
でも、ドイツ全体にラクダが居ないとしたら、どうなのですか?
「もしB市が小さな村であれば、たぶん、ラクダが居る場所がないでしょうね。」
「思考の仕方」の変化。私は、それによって現代を生きる私たちが失ってしまったものの大きさを感じます。具体的なものを決して手放さず、ここにはない状況を分析する際にも論理を用いることを拒む心性を、私は笑う気にはなれません。〔ratik・木村 健〕
フリンの最近の見解は、以下の近著で読むことができます。
書 名:Are We Getting Smarter?: Rising IQ in the Twenty-First Century
著 者:James R. Flynn
出版社: Cambridge University Press
発行年:2012年