文学作品の一節を読むことで、他者の目や表情から相手の感情を読み取る力が即座に向上することを示す実験結果がScience expressで報告されています。
David Comer Kidd and Emanuele Castano (2013). Reading literary fiction improves theory of mind. Science express.
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数百人のオンライン・ボランティアの協力で実施された今回の実験では、「文学作品」「ノンフィクション」「ポピュラー小説」などのテキストが、それぞれ数ページ分ずつ用意され、それらを読んだ後に、他者の目や表情の写真などを元に、相手の感情を識別するテストが実施されました。その結果、「文学作品」を読んだ者には即座に効果が現れ、視覚的・言語的キューをもとに他者の思考や感情を特定する力などが向上していることが分かりました。また、「ノンフィクション」「ポピュラー小説」を読んだ者には、実験後、こうした効果は現れなかった、とのことです(ちなみに、この実験では「文学作品」と「ポピュラー小説」との区別を、「過去に何らかの文学賞を受賞したか否か」「何らかの文学賞の候補としてノミネートされたか否か」を基準に行っているとのことです)。
「文学」と「心の理論」との関係性に着目した研究は、過去にもありました。たとえば、或る研究では、「小説家の名前をより多く知っている人」(≒それだけたくさん小説を読んでいる人 という仮説です)ほど、「社会的な気づき」や「共感」の能力が高いことが実験室内で明らかにされていました。ただ、こうした研究では、
- 小説をよく読むから(原因)、共感性が高くなっている(結果) のか、
- 元々、共感性が高いから(原因)、小説をよく読む(結果) のか、
を区別することができませんでした。
今回の研究は、上記の難点を実験デザインによって克服していることにはなります。
「文学」さらには「物語」と「心の理論」との関係については、まだまだ明らかにしなければならない事柄が残っているように思います。
ただ、「文学」の効用として「共感性の向上」を謳い過ぎることに対して、私は懐疑的でありたいと思っています。このように思うのは、実は、(全てとは言いませんが…)学生時代に受けてきた「道徳的な説教」の時間としての「国語」の授業が原因になっています。〔ratik・木村 健〕