「人類にとって、暴力的な対立は不可避なものである」といった結論には与しない! これまでに得られた広範な知見をレビューしつつ、心理学が、たんに暴力の「起源」や「本質」を理解することに留まらず、非暴力や平和の促進に貢献できることを、American Psychologist誌のなかで、政治心理学者たちが語っています。
Bernhard Leidner, Linda R. Tropp, Brian Lickel. Bringing science to bear—on peace, not war: Elaborating on psychology’s potential to promote peace. American Psychologist, 2013; 68 (7).
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研究グループは、「集団間脅威」「不確実性」「グループ・アイデンティティ」「道徳的信念」などに関し、ここ数十年にわたって政治心理学・社会心理学が獲得してきた知見を振り返り、集団間の葛藤が、いかに人々の「世界」や「自分たち自身」についての見方を変容させたかを示します。そうしたプロセスを経て、「集団間暴力」の生成に貢献し、それを存続させる心理学的要因が特定されていきます。また、そこには「対立」によって、そうした場に相応しい「情動的反応」や「信念体系」が育まれていく様も見出されます。
研究グループが着目するのは、集団間の「葛藤」や「暴力」が、しばしば、人々の「心理学的欲求」を満たしてしまうことです。「アイデンティティ」「安全」「安心」「力(権力)」に対する人々のニーズは、集団間の争いが継続することに「お墨付き」を与えてしまうという訳です。
これまで「非暴力」というテーマに研究的な注意が向けられてこなかった、しかし、こうした傾向は変えていくべきである…。また、政治的なリーダーは、「暴力的な対立」とは異なる道筋を人々に示すべきだ…。研究者たちはこう主張します。
正論であろうと思います。私たちの「学知」の真価が問われる場面だと感じました。〔ratik・木村 健〕