「痛み」が与えられることが避けられない状況において選択を求められた場合、多くの人が、将来与えられる「小さな痛み」ではなく、今すぐ与えられる「大きな痛み」を選ぶ…。「異時点間選択課題」の新バージョンとも解釈できる研究成果が、PLoS Computational Biologyに掲載されています。
Giles W. Story, Ivaylo Vlaev, Ben Seymour, Joel S. Winston, Ara Darzi, Raymond J. Dolan. Dread and the Disvalue of Future Pain. PLoS Computational Biology, 2013; 9 (11): e1003335 DOI.
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私たちには、或る物事の価値を異なる時点間で比較したうえで、どちらをとるかという選択をする場合があります。たとえば、「今すぐもらええる1万円」と「2日後にもらえる1万円」「3日後にもらえる1万円」「4日後にもらえる1万円」「5日後にもらえる1万円」…の中で選択が求められた場合、私たちはより前者を選ぶのではないでしょうか。このように一般的な「報酬」であれば、「現在」から「未来」に向かう程、その価値が低下していることが理解できます。
また、「今すぐもらええる1万円」と「2日後にもらえる1万2千円」、「今すぐもらええる1万円」と「1年後にもらえる5万円」、さらには「今すぐもらええる饅頭1個」と「2日後にもらえる饅頭5個」といった具合に、「現在からの時間的な隔たり」「異時点間で比較される絶対量的価値」「報酬の種類」を変化させて問うことで、特定の事物の時間の経過に伴う価値低下の度合いを測定することも可能でしょう。
今回の研究の斬新さは、これまで「異時点間選択課題」に関する研究で扱われてきたのが、選択する本人にとってプラスの報酬が大半だったところを発想転換し、「痛み」とりわけ誰でも避けたくなるような「電気ショック」を題材に取り上げているところです。
私たちは、「現実の苦痛」ではなく「苦痛が待ち構えていること」に、とても弱い存在なのかもしれません。この成果は、人間の行為を理解する上で、また新たな視点を提供しているように感じました。〔ratik・木村 健〕