社会的・対人的に「力不足」「役不足」を感じている人は、物理的・身体的に「荷物」を持った際に、実際の重量以上の「重さ」を感じてしまっている…。「身体化された認知」の1つのバージョンとも言えるユニークな研究結果が、Journal of Experimental Psychologyに掲載されています。
Eun Hee Lee, Simone Schnall. The Influence of Social Power on Weight Perception. Journal of Experimental Psychology: General, 2014; DOI: 10.1037/a0035699
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社会的場面、対人的場面で「力不足」を感じることは、しばしばあります。しかし、ここで言う「力」が、単なる比喩に留まらず、自らの「身体的な力」の認知と結びついていることを、ケンブリッジの研究者たちが明らかにしています。
人は、特定の「気分」にあるときに、普段とは「異なる物理的世界」を認識して生活しているのかもしれません。
研究は、次の3つの実験を通して進められました。実験参加者には、次々に指示が与えられるだけで「何が」評価・測定されているかは事前に知らされていない、ということです。
【実験 1】145名の実験参加者は、幾つかの文章を読まされ、その内容が、どれくらい自分にあてはまっているか判断するように求められました。ここで用いられた文章群は、たとえば「私は、自分が言っていることを相手に言い聞かせることができる」など、社会的関係の中で自らの「力」をどのように認識しているかを測定するために用意されたものです。
次に、参加者は、幾つかの「箱」を持ち上げて、「重量」を評定することが求められました。
その結果、「自らの社会的な力」を低く認識している人ほど、実際の箱の重量以上の「重さ」で評定する傾向が見られました。
【実験 2】41名の実験参加者は、幾つかの「箱」を持ち上げて、重量を評定することが求められました。
ただし、2つのシリーズで課された「重量の評定」の間に、3つのグループに分けられた「操作」が挟まれています。
- 椅子のレストに肘を置き、伸び伸びと、ふんぞり返った姿勢で座ってもらうグループ
- 椅子に前の机に肘を置いて座ってもらうグループ
- 手を太ももの下に敷き、肩を落として座ってもらうグループ
結果、1回目の「重量の評定」では、大半の参加者が、実際の箱の重量以上の「重さ」で評定していたところ、2回目の「重量の評定」では、「より支配的なポーズで座らされたグループ」は評定が正確になったのに対し、「より従属的なポーズで座らされたグループ」は依然として実際の箱の重量以上の「重さ」で評定してしまう傾向が継続しました。
【実験 3】68名の実験参加者には、社会的・対人的に「有力」あるいは「無力」な気分を味わった経験を想起してもらいました。その直後に、幾つかの「箱」を持ち上げて、重量を評定することが求められました。
結果、「有力」な気分の出来事を思い出した参加者は、より正確に重量の評定ができたのに対し、「無力」な気分の出来事を思い出した参加者は、実際の箱の重量以上の「重さ」で評定してしまう傾向がみられました。
シンプルな実験デザインながら、明瞭な結果が出ており興味深く感じました。
また、心身にこのような関連があるならば、逆に、身体的トレーニングか何かで、同じ箱が以前より軽々と持てるようになった人物は、社会的・対人的により「有力」感を抱くようになるのだろうか、とも思いました。〔ratik・木村 健〕