ほんの数分の「刺激」が繰り返されるだけで、自分の手が大理石でできているように錯覚してしまう…。名付けて「マーブルハンド・イリュージョン(Marble-Hand Illusion)」。私たちが自分の「身体像」を作り上げるのに、刻々変化する多感覚の知覚情報を利用していることを示す実験結果がPLoS ONEで報告されています。
Irene Senna, Angelo Maravita, Nadia Bolognini, Cesare V. Parise. The Marble-Hand Illusion. PLoS ONE, 2014; 9 (3): e91688 DOI: 10.1371/journal.pone.0091688
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私たちは、「この手」がまさに「自分の手」であることを知っています。しかし、こうした信念が容易に覆ってしまう事例として、「自分の手」だと思っているものが「ゴムでできた模型の手」と入れ替わってしまう「ラバーハンド・イリュージョン」は、認知心理学ではよく知られています。
他方、私たちは、自分の手が「肉」と「骨」でできていると知っています。また、こうした「自分の身体は、どのようなもので出来ているのか」という信念は、長期にわたる経験的知識に基づくもので、比較的強固なものであるように、これまで思われてきました。
ドイツ、イタリアの研究グループによる今回の研究は、「自分の身体は、どのようなもので出来ているのか」という信念さえも、刻々ともたらされる多感覚の知覚情報の統合の結果、容易に変更され得るものであることを示しています。
実験参加者は、机に手を置く形で椅子に座ります。実験者は、小さなハンマーで、実験参加者の手を軽く叩きます。それとシンクロさせる形で、実験参加者には、「実際にハンマーで手を叩く時のナマの音」を徐々に「ハンマーで大理石を叩く音」に置き換えて聞かせていきます。
その結果、5分ほどで実験参加者は「自分の手」が、あたかも「大理石」で出来ているかのような感覚を持つようになる、ということです。さらに、そのような錯覚が生じた段階で、実験参加者の手に「尖った釘」を近づけると、皮膚表面の電気的反応自体も、それまでとは異なったものになってしまう、とのことです。
自らの身体が変化したとしても、環境に適応していくのに有利なように「身体像」を変更していけるシステムを、私たちは有しているということになるのでしょうか。心身の不思議に触れる研究結果であるように感じます。〔ratik・木村 健〕