機器の小型・軽量化が進んだこともあり、ラップトップ・パソコンを筆記用具として使う場面が増えてきました。しかし、その弊害を唱える見解も根強くあります。「単に事実を覚える」ような類の知識では差が出ないものの、「概念的な意味連関についての知識」を理解しつつ習得するような場面で、「手書きのノート」が「パソコンによる筆記」を上回る効果をもっていることを示す研究成果が、Psychological Science誌に紹介されています。
Mueller, P. A., & Oppenheimer, D. M. (2014). The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking. Psychological Science, 0956797614524581.
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新一年生も、授業に慣れ、そろそろノートのとりかたを学び始めている頃でしょうか? 小学校入学以降、社会人として働くに至るまで、「人の話を聞いてノートをとる」という技能は、常に私たちの生活の中で求められます。また、最近の機器の高性能化は著しく、パソコンが種々の局面で「筆記用具」としての力を発揮しています。
他方で、「パソコンによる筆記」の弱点は、これまで種々指摘されてきました。その大きな1つが、パソコンがもつ多機能性(インターネット、ゲーム、メール、…etc.)が、筆記の最中に使用者の気を散らしてしまう、というものでした。
今回の研究では、ネットに接続しないスタンド・アローンのパソコンを「純粋に筆記道具として」実験参加者に使ってもらったにも関わらず、効能として「手書きのノート」が「パソコンによる筆記」を上回る様が報告されています。
65人の大学生が参加した実験の手順は以下のようなものです。
- 小グループに分けた上でTEDトークのビデオを学生たちに見てもらう。
- トーク・ビデオの内容は、興味深いものではあるが、誰もが知っているようなテーマではないものが選ばれている。
- ビデオ視聴中、或る学生には「紙のノート」が、別の学生には「ラップトップ・パソコン」が与えられ、普段の仕方でノートをとるように指示が為される。
- トーク・ビデオ終了後、学生には、ワーキングメモリに負荷をかけるものなど、30分間のディストラクター課題が与えられる。
その後、学生には、次のような2つの種類の「試験」が課されました。
- 事実の記憶を確かめる問い:たとえば「おおよそ、いつ頃までインダス文明は実在したか?」
- 概念的な意味連関についての知識形成を確かめるうような問い:たとえば「日本とスウェーデンとでは、「平等」を目指す社会的なアプローチに、どのような違いがあるか?」
結果、とりわけ、後者のタイプの質問で、「ラップトップ・パソコン」が与えられたグループのパフォーマンスが悪くなっていました。
総じて言えば、多くの文書量をノートした学生の成績は優秀になっています。しかし、「ラップトップ・パソコン」を使用した学生では、メモ文中に逐語的な重複が多くみられたとのことです。さらに驚いたことに、記録に際して逐語的な冗長さを避けるよう事前に指導しても、その効果は限定的であるとのことです。
記憶や概念的知識の定着にとって、「手書きのノート」には利点があるようです。それは、恐らく情報を取捨選択した上で、自らの言葉で再構成するメンタルなプロセスが、「紙」と「鉛筆(ペン)」による記述によって生じ易いことを示しているのでしょう。
単に筆記に用いる道具の違いに着目することを超えて、より有効な「学び」が成立するメカニズムを探っていきたい気がしました。〔ratik・木村 健〕