発話についての聴覚的なフィードバックが、発話者本人にとっての言葉の意味を確定していく様を捉えた研究成果が、Psychological Science誌に発表されています。
Lind, A., Hall, L., Breidegard, B., Balkenius, C., & Johansson, P. (2014). Speakers’ Acceptance of Real-Time Speech Exchange Indicates That We Use Auditory Feedback to Specify the Meaning of What We Say. Psychological Science, 0956797614529797.
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何かを話すとき、発話者は「発話という行為以前」に言葉にはならないものの「明確な観念」をもち、「何を話そうとしているのか」を正確に知っている、と私たちは考えがちです。言い換えれば、発話とは、「前言語的なメッセージ」の忠実な翻訳作業に他ならない、ということになるでしょう。
スウェーデンの研究者グループによる今回の研究は、こうした「発話モデル」を覆すものとして、要注目です。
実験では、参加者に「ストループ課題」が課されました。ここでの課題内容は、種々の色のフォントで表示される「色の名前」が提示され、実験参加者は、「フォントの色」のほうを読み上げるというものでした。例えば、以下のような具合です。
Green(→「赤!」と読み上げる)
Red(→「緑!」と読み上げる)
この時、実験参加者にはヘッドフォンを装着してもらい、自分の発話が聴覚的にフィードバックされることが告げられます。他方で、この実験では、発話音声の聴覚的にフィードバックを操作し、本人の声色で別の言葉を発する際の音が流されました。上記の例では、たとえば参加者が実際には「赤!」と読み上げているところで、ヘッドフォンからは「緑!」という「自分の声」が聞こえてくる、ということになります。こうした音声の置換は、タイミングさえ適切であれば、3分の2のケースで実験参加者には気づかれることがありませんでした。
結果、音声置換が気づかれない試行のうち、実に85%で実験参加者は、「自ら発した言葉」ではなく「ヘッドフォンから流れてきた置換された言葉」のほうを、「自らの発話」として認識していました。
「自分が何を話したか」を認識するうえで、事前に「何を話そうとしていたか」という記憶を利用できそうに思います。また、発話の聴覚的フィードバックとしては、骨伝達の振動も利用可能でしょう。さらには、特定の語の発話には、それ特有の身体運動がエージェンシーを伴うかたちで生じている筈です。
今回の実験では、条件さえ整えば、こうした種々の「キュー」がキャンセルされ得ることが示されています。
「言葉の意味とは何か?」という問いに答えていくために、示唆に富む成果であると感じます。〔ratik・木村 健〕