将来、どれほど脳イメージング技術が発達し、行為の事前予測が可能になったと想定しても、人々は「自由意志」の存在自体を疑うことはない…。こうした結果を、シナリオを用いた心理学実験が明らかにしています。
Nahmias, E., Shepard, J., & Reuter, S. (2014). It’s OK if ‘my brain made me do it’: People’s intuitions about free will and neuroscientific prediction. Cognition, 133 (2), 502-516 DOI: 10.1016/j.cognition.2014.07.009
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脳活動の情報を追跡することで、当事者が某かの選択・決断を自覚しつつ為す以前に、当該の行為を部外者が予測出来得ることが実証されています。このことを根拠として、幾ばくかの科学者達は「自由意志」が「幻想」に過ぎないと主張するに至っています。
数百人の学生を対象としたこの研究では、事前からの脳神経活動に基づいて人々の行為の選択・決断を完璧に予測してしまう「未来の脳イメージング技術」を想定した幾つかのシナリオが用意され、質問紙調査が行われています。
上述の科学者達の主張とは裏腹に、結果は、調査に参加したほとんどの学生が「進展した脳科学」の成果を想定したとしても、行為者に対する「自由意志」や「責任」の帰属に支障を感じない、というものでした(ただし、さすがにシナリオ内の実験者が、「予測」に留まらず、行為者の脳活動に「操作」を加えるシナリオでは「自由意志」「責任」の帰属を躊躇う結果にはなっていました)。
今回の研究の成果は、少なくとも私たちの有する(?)「自由意志」の信念が、「行為の予測可能性」の次元で獲得されているのではない、ということを示しているのかもしれません。他方で、「完璧な予測」を前にしても、「自由意志」の信念を手放さない私たちの多くのほうが、何か大きな誤解をしてしているのかもしれません。
心理学的研究は、「現に人々はどのように考えているのか」を鮮やかに掬い取ることに成功しています。その中には捨て去るべきではない「直観」が含まれているかもしれませんし、含まれていないかもしれません。恐らく、決着をつけるためには、あと幾らかの思索の積み重ねが必要となってくるでしょう。〔ratik・木村 健〕