8歳児を対象に作業負荷の異なる課題を課す実験で、早産により、いわゆる「ワーキング・メモリ」の稼働を要するような認知遂行能力に障害をもたらすリスクが増加することを、ルール大学ボーヘム校(ドイツ)とワーヴィック大学(イギリス)の心理学者グループが明らかにしています。
Jaekel, J., Baumann, N., & Wolke, D. (2013). Effects of gestational age at birth on cognitive performance: a function of cognitive workload demands. PloS one, 8(5), e65219.
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人口統計の厳密化により、新生児医療の進歩が早産(と、それ以降の子どもの生存可能性)の増加をもたらしていることが把えられています。現在、全世界で年間1,500万人、率にして10%以上の子どもが「妊娠37週」未満の早産で誕生しており、その数は年々増加傾向にあります。
最近の研究は、妊娠期間満了(妊娠39〜41週)での出産に比べ、早産が、誕生後生存の子どもの脳の発達を妨げ、こうした子どもたちに認知神経科学的なリスクをもたらすことを指摘していました。ただし、これまでは、早産で生まれた子どもの学習困難の本質や発生メカニズムは明らかにされていませんでした。
ルール大学のJulia Jäkelらのグループは、作業負荷の多寡に基づくモデルを導入することで、妊娠期間と子どもの認知遂行能力との関係を明らかにしています。
研究グループが対象にしたのは、妊娠継続期間が23〜41週だった8歳の子ども1,326人。実験で子どもたちは、作業負荷の異なる課題を含んだ一連の認知テストに参加しました。作業負荷の高い課題の遂行には、異なる情報源から得たものを同時併行で処理し統合するなど、いわゆる「ワーキング・メモリ」がはたらいていることが必要になります。
実験結果について、Julia Jäkelは「妊娠継続期間の短かった子どもたちは、課題の作業負荷が高くなると、認知的なパフォーマンスが劇的な形で落ち込んでいる」と指摘しています。実験で、この傾向は、とりわけ妊娠継続期間が「34週未満」であった場合に顕著にあらわれています。ただ、逆に言えば、妊娠継続期間の長短は、作業負荷の低い課題に関する認知遂行能力には影響をもたらしていないことも、この実験からは明らかになっています。
現在、妊娠期間満了(妊娠39~41週)以前の出産による子どもが全体の50%を占めていることを考えた場合、個々の子どもの認知遂行能力の障害がわずかであったとしても、全人口規模でみた場合には、大きな影響となってあらわれるかもしれません。
ルール大学のJulia Jäkelは「早産で生まれる子どもが総数として増えていくことは、並行して、教育システムに関する新しい需要に適合した特別教育を求めるニーズを増加させていくだろう」と指摘しています。また、共同研究者であるワーヴィック大学のDieter Wolkeは「最近の研究で、コンピューターを援用したトレーニングで、ワーキング・メモリのキャパシティを改善できることが指摘されている。それに加え、同時併行的に処理させるように子どもに情報を一度に与えるのではなく、確実な学習的到達を促すために、ゆっくりと順序を追って情報を提示していくような教育的な介入法を開発していくことも可能である」と述べています。〔翻訳・構成 ratik・木村 健〕
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