貧困・虐待・養育放棄などの破局的状況に打ち克ち、自ら豊かな生を築くまでに至れたごく一握りの子どもたち。大人に成長した彼/彼女らを待ち受けていた「新たな危機」を明らかにする研究が Psychological Science誌に掲載されています。
Brody, G. H., Yu, T., Chen, E., Miller, G. E., Kogan, S. M., & Beach, S. R. (2013). Is Resilience Only Skin Deep? Rural African Americans’ Socioeconomic Status–Related Risk and Competence in Preadolescence and Psychological Adjustment and Allostatic Load at Age 19. Psychological science.
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貧困・虐待・養育拒否をはじめとした逆境にもかかわらず、学業的な達成を遂げ、感情的な安定をみせ、社会的・社交的な問題もなく、自尊感情を保って成長していく「ごく一握りの子どもたち」がいました。こうした子どもたちに備わっていたものを「リジリエンス(resilience)」という概念でとらえ、それを解明していこうとする学術的取り組みがこれまで進んできました(例えば、下記書籍をご参照ください)。
今回の研究成果は、大人になった子どもたちが、実は、心臓血管系の疾患、糖尿病、ガンなどの罹患の大きなリスクを背負ていることを明らかにするものです。
人の身体は、ストレスフルな状況にさられると、或る種のホルモンを分泌することで環境に適応しょうとします。この神経科学的な生体反応は、短期的には非常に重要なのものです。しかし、これらのホルモンは、反面で免疫系を駆動して身体システムにダメージを与えるものでもあるため、長期間にわたってストレスにさらされ続けた結果、疾患リスクが上昇してしまうというのです。
サウスジョージアの489人のアフリカ系アメリカ人の若者を対象にしたこの研究では、「リジリエントな子どもたち」の多くが19歳にして早くも高い健康リスクを抱えていることが明らかにされています。
研究を進めたGene Brodyは、大人に成長した彼/彼女らの検診体制の充実の必要性を述べています。〔ratik・木村 健〕
(参考書籍)
書 名:ナラティヴから読み解くリジリエンス:危機的状況から回復した「67分の9」の少年少女の物語
著 者:スチュアート T. ハウザー、イヴ ゴールデン、ジョセフ P. アレン
訳 者:仁平 説子、仁平 義明
出版社:北大路書房
発行年:2011年