これまで、自己の身体を認識するのに重要な感覚は、触覚や運動感覚などの体性感覚と視覚だと考えられてきました。身体認識における聴覚の貢献を新たに報告する研究成果を「NTTコミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2013」で知りました。
【参考文献】
A. Tajadura-Jiménez, A. Väljamäe, I. Toshima, T. Kimura, M. Tsakiris and N. Kitagawa, “Action sounds recalibrate perceived tactile distance,” Current Biology, Vol. 22, R516-R517, 2012.
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私たちの自己の身体認識は、安定したものではありません。たとえば、
- ピノキオ錯覚:目隠しをして手で鼻をつまんだ被験者の肘の運動受容器にバイブレーション刺激を与え肘を伸ばしたかのような体性感覚を発生させることで、被験者に「鼻が伸びた」という錯覚を起こさせるもの
- ラバーハンド・イリュージョン:ゴム製義手と被験者の手に同時に触覚的刺激を繰り返す一方、被験者にはゴム製義手しか見せない状況を作り出すことで、被験者にとってあたかもゴム製義手が自らの手であるかのような錯覚を起こさせるもの
などは、こうした不安定さを示すものです。また、これらの事象を通して、触覚や運動感覚などの体性感覚と視覚が連動しながら動的に「認識される身体」を構築していく様を知ることができます。さらに、このように私たちの自己の身体認識が可塑的であることが、成長や身体欠損に伴う自己像の修正や、身体拡張による円滑な道具使用を可能にしていることも理解できます。
今回紹介された研究は、自己の身体を認識する際の聴覚の役割を新たに明らかにするものでした。
足音や衣擦れをはじめ、私たちは身体運動に伴って、時間・空間に結びついた様々な音を発生しています。身体運動に対するフィードバックとして、こうした音を聞くことが身体認識に関わっていることは十分にありえることです。
実験では、手で床を叩くことで発生する音を、人工的に実際の音源よりも遠方から聞こえるように設定することで、被験者に「腕が伸びた」かのような錯覚を生じることを突き止めています。〔ratik・木村 健〕
- 「音が出ているのは自分の右手が叩いているところの筈だ」
↓ - 「音は、あそこ(人工的な音源の位置)から聞こえている」
↓ - 「自分の右手は、あそこ(人工的な音源の位置)にある」
↓
誤った身体認識