実存的な不安が、ユーモアの創造に寄与している…。恐怖管理理論をベースにした研究がHumor誌に掲載されています。
Christopher R. Long, Dara N. Greenwood. Joking in the face of death: A terror management approach to humor production. Humor, International Journal of Humor Research, 2013.
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不安に対する心理的防衛機制として、ユーモアがファンダメンタルなレベルで役立っていることは知られています。研究者グループは、死に対する思考が活性化された状態は、ユーモアの創出を容易にするのではないかという仮説を検証する実験を企てました。
学生117人の実験参加者は、次の4つのグループに分けられました。
- 無意識レベルで(超短時間に)「死に関する言葉」を提示されたグループ
- 無意識レベルで(超短時間に)「苦痛に関する言葉」を提示されたグループ
- 「自らの死」「歯医者での苦痛な経験」のいずれかのテーマで「自分の感情」を記述する課題で「自らの死」を選んだグループ
- 「自らの死」「歯医者での苦痛な経験」のいずれかのテーマで「自分の感情」を記述する課題で「歯医者での苦痛経験」を選んだグループ
参加者には、その後、マンガのキャプション(セリフ)を埋める課題が与えられました。また、上記の実験参加者とは別に、実験のことは何も知らされずに完成したマンガのユーモア度を評価する人々が集められました。
結果、ユーモアに関する外部評価は「無意識レベルで死に関する言葉を提示されたグループ」によって書かれたキャプションに対して最も高くなっていました。
恐怖管理理論を眺めていく上で興味深いのは、ユーモアに関する実験参加者自身の評価の表れ方です。「記述課題で自らの死をテーマに選んだグループ」、すなわち顕在的に死を考えているグループは、「記述課題で歯医者での苦痛経験をテーマに選んだグループ」よりも、自らのユーモアに対する自己評価が高くなっていました。他方、潜在的に「死」や「苦痛」を提示されたグループの間には、自己評価に対する差はみられませんでした。
心理的な防衛機制のはたらき方や実効性は、「恐怖」の意識のされ方のレベルに左右されていることがうかがえます。人間の生の巧妙さを知る上で、目が離せない領域が開けています。〔ratik・木村 健〕