ratikの近刊『リフレクティブ・マインド』では、異時点間選択課題での現在志向/未来志向の決断に種々の要因が関わっていることが取り上げられています。それにも関連していますが、とりわけ女性の選択が「性的なものを喚起する事前の刺激」の有無によって左右されることを示す研究成果が、Journal of Consumer Psychologyに掲載されています。
Anouk Festjens, Sabrina Bruyneel, and Siegfried Dewitte (2013). What a feeling! Touching sexually laden stimuli makes women seek rewards. Journal of Consumer Psychology DOI: 10.1016/j.jcps.2013.10.001
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これまで、女性は経済的な意思決定において「性的なものを喚起する刺激」に影響されにくいという見解が唱えられていました。この研究成果は、それを反証していく流れに属します。
論文は幾つかの実験から構成されていますが、基本的には、実験参加者に対して「衣料製品の質を評価してください」といった指示のもと、ボクサーパンツ、Tシャツ、ブラジャーなどを実際に手に取ってもらった後、「異時点間選択課題」や「リスク選択課題」を受けてもらう、といったストーリーで構成されています。また、単に「男性/女性」といっても「ホモセクシュアル/ヘテロセクシュアル」の人がいますから、実験によっては実施者が事前にそれを把握しているものもあります。
例えば、多くの人にとって「今すぐ得られる少ない金銭的報酬」と「将来得られる大きな金銭的報酬」とは、或るプロポーションで等しい価値をもちます。1つの実験では「1ヶ月後(あるいは1週間後)」に「15ユーロ」の報酬を渡すことは、現時点でいくら減額した報酬を渡すことに等しいかが尋ねられていました。その結果、事前に「男性用ボクサーパンツ」に触れた女性の平均は「10.5ユーロ」、「Tシャツ」に触れていた女性の平均は「12.5ユーロ」になっていました。この結果を、現在から未来に向けた報酬の価値の下がり具合として比較した場合、「男性用ボクサーパンツ」に触れた女性の意思決定が「現在の価値」をより高く見積もる傾向になっていると言えそうです。
その他にも、ギャンブル課題において、事前に「男性用ボクサーパンツ」に触れた女性のほうが、「Tシャツ」に触れた女性よりも「リスキーな賭け」をする結果が出ています。
男性も交えた今回の1つの実験では、男性では、顕著な差異が生じなかったようです。また、研究者たちは、この「男女差」を脳内の報酬回路の男女差と結びつけようともしているようです。
研究成果をどこまで生物学的な基盤に結びつけるかについては議論の余地がありそうですが、私たちの意思決定が、こんなにも「些細なこと(?)」に左右されてしまう有様は、よく理解しておく必要がありそうです。〔ratik・木村 健〕